スポーツささえびと(Vol.68掲載)

スポーツを支える人にスポットを当てたインタビューコーナーです!

今回は、現WBO世界スーパーフライ級王者「中谷潤人」選手の弟であり、日本ボクシングコミッションのマネージャーライセンスを取得し、専属マネージャーを務めている中谷龍人さんにお話を伺いました。

M.Tボクシングジム

マネージャー

中谷 龍人さん

-マネージャーの主な仕事は?

主な仕事は兄(潤人選手)の練習と体重の管理です。練習管理では、日頃の練習メニューをトレーナーと相談して決めています。体重管理では、特に試合前は減量(ボクシングは計量日までに体重を自分の階級の規定値まで落とさなければいけない)があるので、体重やコンディションをいつも近くで観察して、スパーリングのラウンド数を決めています。

減量中は一番ストレスがかかる時期なので、兄に負担が掛からないように気を遣いながら身の回りのこともしています。

最近階級を上げた(フライ級→スーパーフライ級)ので、減量も以前程ではありませんが、他の選手に比べると身長も大きいので楽ではないんです。

本人はあまり表に出してピリピリするようなタイプではないので、マネージャーとして(気持ちを)感じ取ってサポートしています。弟であるということが活かされていると思います。 他にもアメリカでのトレーニングの際には、兄と2人で行くので、スーパーで買い出しして食事を作ったりもしますね。

-マネージャーになったきっかけは?

兄がプロになりたての頃はこっち(相模原市)に1人で住んでいて、乱れた食生活のため、貧血がひどく、一度倒れてしまったこともありました。そのため、両親がこっちに引っ越すことになった時に、僕は大阪で料理の修行をしていたのですが、僕自身も小さい頃はボクシングをしていて、つらさがわかる部分もあるので、兄をサポートしたいと思って、一緒にこっちに来ました。 最初は減量の付き添いを手伝いでやっていたという感じだったのですが、去年のスーパーフライ級に階級を上げる時(11月頃)に会長から「もっと携われるようになってほしい。」と言われ、マネージャーになりました。

-料理の資格をお持ちなんですか?

三重県にいた頃は実家が料理屋だったこともあって、中学を卒業した後、料理人を目指して大阪で料理の勉強をしていた時期もあったので、むこう(アメリカ)にいる間は僕が作っています。 ただ調理師免許をもっているだけなので、本人と話したり、色んなボクサーの方に聞いたりしたことを試してって感じで日々勉強しています。自己流でやっていますね(笑)

-体重管理についてはどのようにしていますか?

カロリーの低いものを食べるっていうイメージがあるかもしれませんが、減量はいつも通りのメニューを食べて、その量を減らしていくという感じで管理しています。

少しでも好きなものを食べた方が気持ちは上がると思うので、この方法にしています。

兄は元々すごく徹底するタイプで、中学校1年生の時に当時の会長さんから「炭酸を飲むな」って言われて、そこから今までずーっと飲んでいなかったりとか。 本人がすごい徹底してるので、僕が逆にこういうの食べるといいかな?って相談しながら食事管理していますね。やっぱり調子がよかったかは本人が一番わかると思うので。

-食事管理で気をつけていることは?

牛肉を結構摂るようにしています。“お肉を食べると力が出る”って言いますけど、本人的にも実際に力が出るみたいで(笑) あとはパスタやそばとかの消化しやすい炭水化物もよく摂るようにしています。

-大事な時に食べる勝負飯のようなものはありますか?

鰻ですかね。あと、兄はオムライスが好きみたいで試合前も食べてます。

前回の世界王者決定戦の時は日本からアメリカに父親が鰻を持ってきて焼いてくれました。

アメリカで食べる鰻丼は不思議な味がしましたけど(笑) 多分両親も特別な時だからって変えてあげたくないなという気持ちで普段と変わらないようにやってくれた思うんですけど、すごくありがたかったです。

-練習管理については?

今回でいうとフライ級からスーパーフライ級に階級を上げたので体重を増やすことが必要なのですが、筋肉を増やしてパワーをつけていかなければならないので、フィジカルトレーニングを多めにしました。

その中で重たいものを瞬発的に上げるという、スピードを活かしたフィジカルトレーニングを行うようにしました。

ただ、筋肉をつけすぎてしまうと試合前の減量の時に、筋肉を落とすのは難しいので、体重管理しながらトレーナーと練習メニューを相談しながら管理していました。

筋肉をつければつけるほど減量は難しく、大変になりますね(笑) 本人が階級の差というものをどう感じているかはわからないですけど、僕的に管理する側としては階級を上げるということはすごい大変なことだと感じました。階級にあわせて筋肉をつけていくっていうのは難しいです(笑)

-スパーリングの相手とかはしますか?

しませんね(笑) 多分ボコボコにされちゃうんで(笑)

この間、スパーリングの前日に深く当てないようなパンチを軽く受けたんですけど全然ダメでしたね(笑)

昔は毎日のようにスパーリングしていたんですけど、その時からボコボコにやられていました(笑)

当時から兄はキッズの大会とかでも何度も優勝していて、そんな兄に練習の時に毎日ボコボコにされていたんで、僕の試合の時は相手が全然怖くなかったし、痛くなかったですね(笑)

毎日鼻血出したり、口から血出したりしてて、嫌でした(笑) 普段は優しいんですが、ボクシングになると手加減もないので(笑)

-アメリカでの様子は?

年間通して半分くらいはアメリカにいるんですが、向こうではルディ(アメリカでのトレーナー)の元々家だったところの一室を借りて生活していて、一緒の部屋にベッド2つでという感じで過ごしています。

なので僕が暑くても兄が暑くなければ冷房もつけないし、全部優先的に考えて過ごしています。

食事も一緒の物を食べています。量は少し増やしたりはしますが、一緒の物を食べて一緒に生活しています。

練習は毎回同じトレーナー(ルディ氏)の下で練習しています。でも固定したジムに合宿しに行くというのではなく、強い選手がいると聞けば、その選手にスパーリングしてくれという感じで、スパーリング相手がいるところに行ってトレーニングしています。なので移動距離も大変で、、、(笑) ルディに車も借りて移動しています。運転は国際免許を取ったので僕がしていますが外国での運転は最初怖かったですね(笑)

-海外へトレーニングに行くのがボクシング界では主流ですか?

最近は多いですね。相模原市でもすごくサポートをしていただいているので、環境はベストなんですが、慣れちゃうと緊張感がなくなってしまうので。

同じところで一緒の選手とスパーリングするのといつどこで誰とやるかわからないっていう緊張感を持ちながらやるスパーリングは別物なのでアメリカに相手を求めに行っています。 国内でそういった相手がいないかというとそんなことはないんですが、兄的には不自由なところに行って腕を磨くのが、初心に戻るような気持ちでトレーニングできるからアメリカを選んでるんだと思います。

-印象的な出来事は?

やっぱりこの前の試合(WBO世界戦スーパーフライ級王座決定戦)ですね。

兄が小さい頃から夢見ていた会場で、しかも世界王者を懸けた試合だったからです。

当日はセコンドについていましたが、多くのボクサーたちがそこに立ちたくて練習をしているっていうのもある会場だったので、雰囲気も一流だなと思いました。 最後のダウンの瞬間は日本の観客の方もすごいですが、現地の観客はもっと飛び跳ねたりとか立ち上がったりとかもあるので、日本の雰囲気とは随分違うなーと思いました。

-苦労した(大変な)ことは?

アメリカでのトレーニングの際にむこう(アメリカ)のトレーナーとコミュニケーションを取りながら連携してサポートしていくことが大変ですね。英語は堪能ではないので、アメリカに住んでいる日本人トレーナーを介して会話したりするんですが、通じ合うこともありますが、伝わりづらいこともあって。

減量の仕方にしても日本のやり方とアメリカのやり方がちょっと違うので、密にやりとりしながら、お互いのいい所を見つけてサポートしています。

あと、アメリカでのランニングの時についていくことですね(笑)

危ないのもありますし、減量時期になるとランニング中に倒れちゃうこともあるので、ついていかなければならないんです。

日本にいる時は他の練習生やトレーナーもいるので、僕がついて行くことはないんですけど、アメリカでは僕しかいないので。

1日10㎞以上走るので、一緒のペースで走っていかなければいけないのがちょっと(笑)

アメリカ行ったら毎回10㎏くらい痩せて帰ってきています(笑) 日本に帰ってきたらまたすぐ戻っちゃうんですけどね(笑)

-アメリカと日本の減量の違いとは?

日本の減量は計量日を迎える前に体重を落とし切って、あとは当日を迎えるだけの状態にするために、前日はあまり食べたりせず、水分だけ摂るというやり方をします。

でも、アメリカの減量は前日でもカロリーの少ないものですが食事を摂っていて、計量の時の一瞬だけその体重を作るっていうやり方をします。なので、計量当日にも動いたりするんですよ(笑) 減量の最終段階に入ると次の日動くのも大変なのに。当日ひやひやしますよね(笑)

なので今までは前日の夜にリミット(階級の規定体重)に入って、寝た時の代謝で落ちる分を計算して水を飲んで、朝リミットになるという日本のやり方をしていたんですけど、これはこれで体重が落ちてる時間が長いので身体にダメージが出て、負担がかかるというリスクもあるので、最近はアメリカで教えてもらったようなやり方にしています。ひやひやしますけどね(笑)

この間の世界王者決定戦の際は、計量が午前9時からだったのですが、午前7時に起きてランニングしてから計量をしました。 減量はやればやるほど落ちづらくなってくるので、やり方はすごい悩みます。体重の落ち方にもよりますし。

-減量に失敗した場合はどうなりますか?

失敗した場合は2時間の猶予をいただいて、もう1回計量することができます。 そこでももしダメであれば、試合の契約内容で色々違いはあるんですが、試合当日までに○○㎏までしか増やせないとか、試合当日のリミットまで決められてしまうんです。

-やりがいは?

兄が結果で返してくれることですね。

あとは、兄は口にはあまり出さないですけど、周りの方からこういう風に言ってたよとか、大事に扱ってくれるじゃないですけど、すごい気にしてくれているというか。 減量中で思ったより体重が落ちなくて、少しの水だけを飲んで、次の日の計量の朝までに落とすというつらい時でも、兄が僕に「ご飯食べてないから食べてきなよ」って気を遣ってくれるので、もっとサポートしてあげたい!って思います。

-大切にしていることは?

やっぱり本人の気持ちになることですね。

つらい減量の時に一緒の気持ちになれるように(食事を)控えたりだとか、一緒に走ったりだとか。

ただ単にかける言葉と同じつらい思いをしてかける言葉とでは全然違ってくると思うので。 全く同じことをやっているわけではないので、まるっきり同じ気持ちになれるかと言ったらそうでもないんですけどね。

-ホームタウンアスリートとしてやっていること

試合のトランクスに「潤水都市さがみはら」というワッペンを付けさせていただきました。

「潤水都市」っていうのを見て「あ、潤だ」と自分の名前の漢字があって、本人も気にいっていましたし、兄も大好きな相模原市なので、付けたいという強い気持ちがあったみたいで。

あとはボクシングって面白くて、自分の名前を呼ばれる前にリングアナウンサーの方に出身地を言われるんですけど、本人の希望で、三重ではなく「カナガワジャパン」ってアナウンスしていただいたり。 これからもお役に立てれるかはわからないんですけど、今まで人とは違ったようなことを多分してると思うので、そういうこともお伝え出来たらなと思います。

-今後の目標は?

このままスーパーフライ級で統一世界王者になって、ビッグマッチに挑戦したいと本人も言っているので、それに向けてサポートしていきたいです。

スーパーフライ級も長くはいられないと思うので、階級を上げていくためのサポートをしていきたい。

一番大きい目標は、全階級関係なしに誰が一番強いかというランキングのパウンド・フォー・パウンドっていうのがあって、そこに入っていけるようトレーナーとも一緒に目標を掲げています。

過去には井上尚弥選手が1位になられていて、同じ日本人としてはすごく偉大なことなので、兄が目指していけるようにサポートしていきたいです。 あと、いつか相模原市でも試合をしたいですね。同じジムに日本ランキング入りした相模原市出身の石澤開選手などの強いボクサーもいるので、ぜひ市民の方々の前で戦いですね。

-読者にメッセージ

ボクシングはなかなか普段接することの少ないスポーツだとは思いますが、「中谷潤人」というボクサーを見ていただいて、今までと違うようなボクシングの良さを感じていただけるんじゃないかなと思うので、ぜひ試合を見てください。 そして応援をよろしくお願いいたします。

~インターバル(ボクシングは1R3分で、インターバルとして1分間の休憩後、次のラウンドが開始)インタビュー~

-自己紹介

三重県の出身で7年前くらいに家族で相模原市に引っ越してきました。ボクシングは兄の影響で好きになって、小・中学生の時に兄と一緒に選手としてジムに通っていました。

僕がボクシングをやっていた当時から兄はキッズの大会とかで何度も優勝していて、そんな兄に練習でいつもやられていました。毎日鼻血出したり、口から血が出たりして、正直嫌でした(笑) 普段は優しいんですが、ボクシングになると手加減もないので(笑) そのおかげで僕の試合の時は相手が全然怖くなかったし、痛くなかったですけどね(笑) 趣味は、ボクシングはもちろんなんですが、映画を見ることも好きですね。

-休みの日は何していますか?

日曜日以外は毎日夕方から練習で、昼間は父の経営している会社で働いているのでプライベートな時間はほとんどないですね。日曜日は日曜日でイベントなどに参加してという感じですし、次の日の練習のために食事を摂っているので、休みの日の日曜日にも月曜日の練習で動きやすいようにしないといけないので休みの日でも仕事しているような感じですね。 休みがあったら、たまに兄が釣り行くのでそこについて行ったりします。兄とは一緒に住んでいるのでプライベートも一緒に行動することが多いです。

-ボクシングに関わったきっかけは?

まず兄がボクシングを始めて、それについて行くように僕も習い始めました。

兄は小学生の頃は空手をやっていたのですが、空手は学年別で試合することが多く、身長も小さかったので、あまりいい結果は出ませんでした。そんな時、実家の料理屋の常連さんから「体重別でできるボクシングとかやってみたらどうだ?」と声を掛けられて、興味をもって見学に行ったのがきっかけです。ただ当時は空手をやっていたので父親には反対されたのですが、やっぱり忘れられなかったみたいで、中学1年生の時に父親にお願いして通い出しました。

空手をやっていたのもあって、格闘技自体は元々好きで、ボクシングもよく一緒に見ていましたが、まさかボクシングを実際にやるとは思っていませんでした。

空手を始めたきっかけも道場の館長さんがお店に来た時に「空手どうだ?」と進められて始めたんです。 実家が料理店じゃなかったら兄も僕もボクシングに関わっていなかったかもしれませんね。

-お兄様との関係性は?

2人兄弟なんですが、兄は口数があまり多い方ではないので、僕がちょっかいを出したりして、それでよくケンカしていました。

選手とマネージャーの立場になってからは、毎日の様子を、普段気にかけないようなことまで気にかけるようになりました。毎日、毎試合、スパーリングの時にも昨日これを食べたから力が出てるんだなとか、こういうことしたから動けてるんだなとか結びつけながら観察しています。 兄とはいえど、そういうところを日頃から観察して、自分のことだったらまあいいかと思うようなところもシビアに接するようになっているかなと思います。

-相模原市の印象はいかがですか?

地元はすごく緑が多い場所だったので、都会に憧れがありました。

相模原市に来たら、都会らしさもあるし、山の方に行けば自然豊かで、遊ぶにしても色々なところがあるので、もう三重には戻れないなと思ってしまくらい住みやすいです。 津久井地域の山の方には川遊びをしによく行きます。地元がそうなのもあって自然の中で遊ぶのが好きなので、都会らしさの中にそういった環境があるのは魅力的だと思っています。


とても気さくで、終始笑顔がたえない、素敵な「ささえびと」でした。

M.Tボクシングジムの皆様もアットホームな雰囲気で迎え入れていただきました。 今後の中谷兄弟のさらなるご活躍と躍進を願い、私たち市民も一丸となって応援していきましょう!

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